HIVとは「ヒト免疫不全ウイルス」のことで、人間の体をさまざまな細菌・ウイルスなどから身体を守るCD4陽性T細胞に感染するウイルスのことをいいます。性交渉などでHIVに感染すると、免疫を司るこのCD4陽性T細胞を徐々に破壊します。ただ壊されても新たに作り直されるため、はじめ自覚症状はほぼありません。よって検査を受けない限り感染に気付くことが出来ません。HIVとは、感染はしていても、エイズ(AIDS)に特徴的な症状が出ていない人をHIV感染者といいます。

HIVとエイズ(AIDS)との違い

HIV感染者の体内では長い時間をかけてHIVが徐々に増え、新しく作り直されるCD4陽性細胞よりも壊されるほうが多くなる結果、免疫が少しずつ低下してゆきます。このため、時間の経過と共に本来なら自分の力で抑えることのできた病気を発症(日和見感染症)するようになります。このように免疫力が下がることで発症する疾患で、代表的な23の疾患を発症した状態をエイズ(AIDS:後天性免疫不全症候群)と呼びます。近年、治療薬の開発が進んで、早期に服薬治療を開始すれば通常の生活を長く送ることが可能となってはきました。

日本国内でのHIV流行状況

日本では1985年に初めてのエイズ患者が報告されたあと、2013年の1500件をピークにやや減少している状態にあります。報告者の感染経路の割合は同性間、異性間で約7:3、うち既にエイズを発症してからの報告例が約3割を占めます。近年HIV/エイズの治療方法は大きく進歩して薬も飲みやすくなり、少なくとも先進国ではすぐ死に至る病ではなくなりました。しかし早期発見が遅れたり、治療を中断したりするとあっという間にウイルスが活性化し、エイズ発症に至ることには変わりありません。

妊娠とHIV感染

母親の体内にあるHIVは血液や母乳にも含まれているため、妊娠中や授乳、出産時のタイミングで子供に感染することがあります。これを防ぐために、妊娠初期でのHIV診断(できれば他の性病も)、妊娠中のHIV治療、陣痛前の帝王切開、出生児への人工哺乳など適切な予防策を行うことで、現在では母子感染率が0.5%未満に下がっています。もちろん対策を行う前にかからないこと、検査を受けること、が何より先ず必要です。

HIV感染からAIDS発症まで

HIVに感染してから、1.急性期(感染初期)2.無症候期3.エイズ発症期の段階をたどります。

「急性期」では、HIVは体内で免疫を司るCD4陽性細胞で急激に増殖し、発熱などの症状が現れることがありますが体内の免疫機能によって数週間のうちに治まります。その後、数年~10年以降にわたる「無症状期」が続きます。(人によってはエイズ発症が短期間のうちに現れることもあります)。「無症状期」でもHIVによる攻撃と、免疫による修復が続き、やがてHIVが優勢に転じると免疫不全の状態となって、健康時には心配する必要のなかった病気にかかりやすくなります(エイズを発症)。

梅毒・HIV セルフ検査キット

 

HIVの感染経路

HIVの感染経路は「性的感染」、「血液感染」、「母子感染」の主に3つです。HIVは血液、精液、膣分泌液、母乳などに多く存在します。唾液、涙、尿などは他人に感染させるだけのウイルス量がありません。感染は、粘膜(膣、口腔、腸管など)および皮膚の傷からであり、健康な皮膚からは傷がない限り感染しません。大部分を占める性的感染は主として、精液、膣分泌液に含まれるHIVが、女性は膣粘膜から、男性は亀頭の細かい傷から、取り込まれることが感染の原因です。膣や口腔に比べ腸壁は粘膜の層が弱く、HIVにより感染しやすくなっています。

感染確率は、コンドームを使わないで挿入による性行為の場合100分の1くらいと、それほど高いわけではありません。しかし、これはあくまで確率のはなしで、たった1回でも感染することがないことはないということです。また、他の性感染症を持っていると粘膜に炎症が起きやすくなり、相互の感染確率が高まります。

性行為による 母子感染
注射器使い回し 医療事故

 

HIV検査とそのタイミング

HIVに感染してから2〜6週間(急性期)には、50〜90%の人に何らかの症状(発熱、リンパ節の腫れ、のどの痛み、筋肉痛、下痢など)が現れますが、いずれもHIV感染以外にもみられる一般的なものなので、感染の確認をするには検査をするしか見分ける方法はありません。HIVは梅毒と同じく感染症法の第5類に分類され、全数把握のために医師は公的・医療機関は届け出をする義務があります。HIVの検査を受けることも知られたくない場合は、先ずはセルフ検査キットで感染の可能性を確認してみることも選択肢です。

HIVに感染しても、4週間くらいまでは抗体がつくられないため、検査を行っても陰性となります。これを「ウインドウ・ピリオド」と呼びます。したがって、感染の可能性のある機会から1か月以上経過していれば、感染している可能性の確認が行えます。

 

HIVの治療

HIV感染を確認した場合は、HIVウイルスの増殖を抑えるための薬物療法が基本的に行われます。近年は薬の飲みやすさが改善されていますが、中途半端に服用すると耐性ウイルスの発生の原因となるので指示通りに服薬することが重要です。HIVウイルスを完全に取り除くことは今のところできませんが、ウイルスの増殖を抑えてエイズの発症を防ぐことはできます。早期に適切な治療を始めれば通常の日常生活を送ることができるようになりました。

エイズを発症し免疫機能が低下すると、日和見感染症と呼ばれるさまざまな病気を引き起こすようになります。この場合はそれぞれの症状に応じて抗菌薬、抗真菌薬、抗ヘルペス薬、抗がん剤などを用いた治療が開始されます。エイズを発症してからの余命は2~3年とされていますので、発症させないために早期の検査・発見が重要です。

予防

HIVは血液、精液、膣分泌液などに多く分泌されますので、それらが粘膜や傷のついた皮膚に触れないようにすることが必要です。もっとも一般的な感染経路である性行為の場合、感染を防ぐために、コンドームを使ってください。また、体調が悪い時には性交渉はなるべく控え、いっときの感情に流されず、コンドームなど必要な対処方法をとる、またはとってもらうことが大切です。

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新宿ウエストクリニック院長
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入江武志 医師 Dr. 入江
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