漢方とは
日本は奈良時代に中国から取り入れた中医学を唯一の医学としてきましたが、江戸時代にオランダから西洋の医学をも導入するにあたってこれらを区別する必要が生じ、それぞれ「漢方」「蘭方」と呼ぶようになりました。現在われわれが病気になった時に受ける治療はたいてい蘭方から発展した西洋医学ですが、予防医学などの観点から、漢方による治療も見直され始めています。日本における漢方は時代を経て、中国で行われている処方方法(配合など)に日本由来の原料なども合わせて独自に進化したものです。*よって同じ薬名でも日中間では内容が少し異なることもあります。
・人はどのようにして病気になるのか
・漢方の診断基準
・漢方は各人の体質にあわせて処方
・漢方薬と西洋薬との違い
・漢方を生活の一部に取り入れてみる
人はどのようにして病気になるのか
病気の原因はウイルスや細菌、生活習慣、ストレス、気候など様々ですが、漢方ではこれらの原因を「外因」「内因」「内外因」に大別します。
外因
気候の変化が自身の身体の適応能力を超えたときに、字のごとく次の「六気(邪気)」となって影響します。
例:「寒邪」クーラーのあたりすぎ
内因
人間の感情の変化が内臓(五臓六腑)に影響して病気を引き起こすことで、字のごとく「七情」に分けられます。
例:「怒」肝に影響し、顔や目が真っ赤になる。
内外因
「内因」でも「外因」でもない原因は「不内外因」と呼びます。事故による負傷、生活習慣の乱れ、などがこれにあたります。
漢方の診断基準
漢方では、西洋医学とは異なる診断の基準「陰陽(いんよう)」「気・血・水(き・けつ・すい)」などをもとに処方を行います。患者特有の体質、および新陳代謝のバランスのことを表します。
・人がもともと持つ「証(病態)」
漢方では、もともと人間が持つ体質や、病気に対する抵抗力の大きさを表すものを「証」と呼び、大きく陰・陽に大別します。陰の性質をもつものとしての「虚証」。これは力が足らず、体力がなくなり病気への抵抗力が落ちている状態。また「寒証」は熱が足らず、寒気や冷えを感じやすい状態のことをいいます。一方、陽の性質をもつものとしての「実証」は、力があり余り、体力があって病気への抵抗力が強い、強すぎる状態。また「熱証」は、熱が体にたまり、ほてりやのぼせを感じやすい状態を指します。どちらも過ぎたるは及ばざるがごとしで、バランスが大切です。
・人の身体の動きを指す要素「気・血・水」
「気・血・水」は体の中を巡って生命活動を行う要素のことを表します。「気」は目に見えなくとも体を動かす原動力のことを表します。「血」は血液そのものと、これによって運ばれる栄養分などの流れのことを指します。「水」は体内を循環するリンパ液、汗、尿、唾液など(血液を除く)のことです。これらのバランスが悪くなるのが病気の状態です。
漢方は各人の体質にあわせて処方
漢方薬は症状だけではなく、各人のもつ「証」つまり、暑がり寒がりといった体質、基礎的な体力、生活習慣などさまざまな要素を総合的に診ながら処方します。同じ症状でも証の違う方に対しては人によって異なる薬が選ばれたり、全く異なる症状でもその原因が共通している場合は、同じ薬が使われることがあります。
漢方薬と西洋薬の違い
漢方薬は植物や動物、鉱物などから作られた生薬で、西洋薬は化学的に合成した成分で構成されています。このほか漢方薬と西洋薬は、治療への姿勢が異なります。
漢方は体本来のもつはたらきを高めるよう作用して、自身の力で正常な状態に戻そうとすることを助ける薬です。局所的な症状だけを診るのではなく、患者の身体全体を通じて、全体的なひずみを正してゆきます。自覚症状がより重視されるので、検査結果に異状がなくても具合が悪いと感じられるときは治療の対象とすることができます。
一方、西洋医学は、症状に対してだけを治療の目的とするものです。(例:痛み←痛みだけをとる)元から身体が持つ自己回復力を薬が肩代わりするかたちとなり、薬のはたらきが及ばなくなると元の状態に戻ってしまう場合もあります。診断の際は客観性に重きを置き、自覚症状だけでなく検査数値も重視されます。ただし漢方薬、西洋薬、どちらにも利点があるので、それぞれの得意分野を組み合わせ、状況によって併用することが有効です。
漢方を生活の一部に取り入れてみる
漢方は症状そのものではなく、症状を持つに至った患者自体にフォーカスして解決方法を探ります。また、心身一体という考えから、心のはたらきもその人の一部として捉えます。一見関係のないように見える複数の症状が、一つの漢方薬で解消されるということもあり得ます。
人は常に絶好調でいられるわけではありません。病院に行くほどではなくても、「なんとなく調子が悪い…?」と感じる方は、漢方を試してもいいかもしれません。身体から発せられるSOSを無視せずに、その原因となるバランスの崩れを整え、我慢のない、快適な生活を手に入れましょう。
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新宿ウエストクリニック院長
安心の医師略歴・著書、メディア履歴臨床経験豊富な当院医師の論文
Dr. 入江
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