バルデナフィルの禁忌 網膜色素変性症患者

バルデナフィル(レビトラ)の禁忌にある「網膜色素変性症患者」について、疾患の正体・分子レベルの理由・なぜ禁忌なのかを臨床実務向けに整理して解説します。


① 網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa:RP)とは

■ 概要

  • 遺伝性の進行性網膜変性疾患
  • 主に杆体(暗所視細胞)から障害され、徐々に錐体も障害
  • 有病率:約 3,000~4,000人に1人

■ 典型症状(進行順)

  1. 夜盲(暗い所で見えにくい)
  2. 視野狭窄(求心性・トンネル視)
  3. 視力低下・失明

② 分子レベルの病態(なぜPDEが関係するか)

● 視覚のシグナル伝達

網膜視細胞では:

  • PDE6(ホスホジエステラーゼ6)
    • 視覚情報変換に必須
    • cGMPを分解し、光刺激を電気信号に変換

● 網膜色素変性症の原因遺伝子

  • PDE6A / PDE6B / PDE6G 変異
  • rhodopsin、CNGA1 など

cGMP代謝異常が本態


③ バルデナフィルが問題になる理由

■ バルデナフィルの酵素選択性

  • 主作用:PDE5阻害
  • しかし:
    • PDE6にも比較的強く作用
    • シルデナフィルよりPDE6阻害が強いとされる

■ RP患者で起こり得ること

  • もともとPDE6機能が脆弱
  • PDE5阻害薬により:
    • cGMP過剰蓄積
    • 視細胞毒性増強
    • 網膜変性の加速リスク

健常者の一過性視覚異常とは次元が違う


④ 起こり得る視覚関連の重篤リスク

  • 永続的視力低下
  • 視野障害の進行
  • 色覚異常の不可逆化
  • 非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)の誘発リスク増加

一度の服用でも不可逆的悪化の可能性


⑤ なぜ「慎重投与」ではなく「禁忌」なのか

理由 内容
基礎疾患が不可逆 悪化すると回復不能
遺伝子異常×PDE阻害 分子レベルで相性が悪い
安全域が不明 用量調整データが存在しない
代替手段がある 非PDE5治療が可能

⑥ 注意点

  • 「夜盲」「視野が狭い」「遺伝性の目の病気」と言われた既往がある人は要確認
  • 軽症・未診断例も含め原則使用しない
  • 眼科でRPが否定されていない限り回避が原則

⑦ 他のPDE5阻害薬との比較(視覚リスク)

薬剤 PDE6阻害 RP患者
シルデナフィル 強い 禁忌
バルデナフィル やや強い 禁忌
タダラフィル 非常に弱い 慎重投与(実質回避)
アバナフィル (日本国内未承認) 最小 原則回避

※ 日本の添付文書では全PDE5阻害薬で禁忌扱い


⑧ 要点

  • 網膜色素変性症=PDE6異常が本態の遺伝性疾患
  • バルデナフィルはPDE6も阻害する
  • RP患者では:
    • 視細胞障害が不可逆的に進行するリスク
  • よって 用量調整不可の絶対禁忌